中古車


予定よりもかなり遅れて、彼は県南へと向かっていました。

その日、仕事を終えて帰宅しようとすると車のエンジンの調子がおかしい。

知り合いの修理工場へ持ち込んでみると、くたびれたエンジンは元にもどらないだろうと

言われました。彼の奥さんは出産のために県南の実家に帰っていました。

今度の休みに会いに行くからと約束をしていた彼は途方にくれました。

出産を控えて余裕もありませんし、車がないと生活に支障もあります。

何より今日奥さんの元に行かないといけません。

落ち込む姿を見かねてか、工場の社長が裏にある車を安くで譲ってくれると言いました。

明日には解体屋に持って行くつもりだったが、ナンバーもついてるし走行に支障はないと。

買う買わないは後にして今日は乗って行きなさいと言われて、好意に甘えることにしました。


乗りなれない車種でしたがエンジンの調子もよく快適な乗り心地でした。

年式も外観も解体屋に出すほど悪い車とは思えず、買ってもいいかなとも思いました。

今夜のうちに奥さんの元に辿り着きたいと道を急ぎましたが、仕事の疲れも

あり眠気が襲ってきました。仕方なく国道沿いの橋のたもとで少し仮眠を取ることにしました。

シートを倒して寝転がるとすぐに眠りに落ちました。

遠のく意識の中で「うふふっ」と女性の笑い声が聞えたような気がしました。

夢なのか現実なのか、眠りに落ちそうになると「うふふっ」という笑い声で

引き戻されます。何度目かの笑い声で寒気を感じた彼は飛び起きました。

すると、笑い声の最後の方が車の中に響いていました。

辺りを見回しても誰もいませんが、なんかおかしいなと思い

仮眠をやめて走り出すことにしました。

しかし、この時から背後に誰かがいるような気配を絶えず感じたといいます。


奥さんの実家で休日を過ごした彼は、また来るからと約束して明るいうちに帰途に着きました。

自宅に戻るより先に修理工場へと向かいました。

事務所に入って行くと、彼の顔を見たとたんに社長が

「やっぱり、あの車いらんか?」と言いました。

怪訝そうな顔で「あの車おかしいですよ」と答え、いきさつを話しました。

彼の話を聞き終えると、「あの車な、女の人を轢き殺してるんだわ」と。

事故後、修理して幾人かに勧めたが同じような理由で帰ってくるので解体処理するつもりだったと。

しかし、工場の社長が乗っている時は何も起こらず腑に落ちなかったので、最後と思い

彼に勧めたそうです。あっけらかんと話す社長に、事情が分かった彼もつられて笑いましたが

あの笑い声を思い出すと・・・・・。


もちろん、翌日から他の車を探しました。

その後、あの車が解体に出されたかどうかは定かでないそうです。



この話とは関係ありませんが、とある解体屋で車の部品を探していた時のことです。

赤いクーペが並んでいました。フロント部分が大破していて大きな事故を予想させました。

自分の探している物とは関係なかったのですが、妙に気になってドアを開けました。

中腰になって中を覗いていると、シート脇にノートの切れ端を見つけました。

クシャクシャになった紙を開いてみると、震える手で書いたと思われる文字で

「父さん 母さん 迷惑かけてばかりでごめんね これで楽になれる やっと楽になれるよ」

と書いてありました。この車の事故で亡くなった人が書いたものでも、遺書のようなものでも

ないのかもしれませんが、強い思いがこもった手紙だったのでしょう。

妙な気まずさを覚えた私は元あったところに戻しドアを閉めました。

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